『  降る雪に ― (2) ― 』

 

 

 

 

   ピチョン −− ・・・・

 

窓枠を伝わって そして 窓ガラスの上に水滴が落ちてきた。

鎧戸が半分開いているらしく 朝陽が絨毯の上に縞模様を描いている。

 

      あ   れ ・・・

 

      ここ  どこ。

      わたしの部屋 じゃないわ  ね ・・?

 

      あのシマシマ ・・・ なんだろ 

      ・・・ キレイねえ 

 

フランソワーズは しばらくぼんやりと床の縞模様を見ていたが

かさり、と寝がえりを打った。

 

「 ・・・  う・・・ ん ・・・・? 」

 

するり ・・・ 光沢のあるシルクらしき上掛けがすべって半分落ちそうだ。

「 あ ・・・っと。   え  ここわたしのベッド・・・

 じゃないわ  ね ・・?  え?  」

伸ばした自分の腕が目に入れば やはりシルクの夜着が柔らかく揺れ、

頬に触れれば なんとも優しい感覚なのだ。

「 ・・・ きもちいい ・・・シルクって素敵よねえ

  ― え。  シルクの寝間着なんて 持ってないわよね?? 」

 

    ガサ。  思わず起き上がり目を見張った。

 

「  〜〜〜〜〜〜 !!  ここ  どこ???  」

 

起き上がったのは天蓋のついた大きな寝台。

シーツも上掛けも枕も すべて上等のシルクにレース付きだ。

枕とクッションは どれにも羽毛がふんだんに使われていて

ふんわり ・・・ 空気をはらんでいる。

 

       うっそ ・・・・

 

       お伽噺のお姫様のベッド〜〜??

 

「 ・・・だれも  いない のかしら 」

 

とにかくこの大仰なベッドから出なければ、と姿勢を変えようとして

またまた 我が姿にびっくり。

たっぷりの袖と爪先も隠し引きずる裾の夜着は ドレープとレースだらけ。

「 !? うっそ〜〜〜   こんなの、着てる???

 だって だって 着た覚え ないのよ? 」

とにかく 日常の自分 に戻らなければ と彼女はアタマを振った。

「 服 ・・・ わたしの服はどこ? 靴は? 」

 

   えいっ!  ばさ。  裾を持ち上げベッドから飛び降りた。

 

「 ―   え〜〜〜  ここ   どこ  」

 

シルクの夜着で 彼女は豪奢なそしてクラシカルな婦人用寝室に  居た。

天井は高く 壁は全体にオダリスク模様の布の壁紙がシックな雰囲気を

醸しだしている。

中央に大きなベッド、そして脇にはマホガニーのやはり大型の鏡台が

どっしりと据え付けられている。

大きな鏡はぴかぴかで部屋内を映し出し 凝った切子ガラスのランプが置いてある。

 

「 ひゃあ〜〜〜〜〜 本当にお姫様の部屋 だわ 」

 

鏡の前に立つと 丁寧にレヴェランスをしてみた。

レースだらけの夜着が 舞台のお衣装にも見えてなんだか不思議な気分になった。

 

「 ― 夢 みてるの? わたし ・・・

 わたしは  フランソワーズ ・・・ そして。  」

 

     あ!!!!  そうよっ!!!!

 

     わたし スキーしてたのよ!! 吹雪の中で・・・

     ジョーと アルベルトと!

 

 バサ!  彼女は勢いよく立ち上がり、豪奢な夜着を脱ぎ捨てた。

 

「 ふ ん ・・・ 下着は いつもの、よね。

 さあ〜〜 防護服はどこ?? わたしの新調したスキー・ウェアはどこ〜〜 」

 

   カタン。  そうっとドアを開け 隣の部屋を伺った。

 

その時 ・・・

 

     きったか〜〜〜ぜ こぞうの かんたろ〜〜〜〜〜〜♪

  

     ワンワンワン〜〜〜〜 ♪

 

     あはは あはは こっちおいで〜〜〜

 

重厚なカーテンの向う、窓の外から な〜んとも暢気でかつ陽気な歌声が

響いてきた。

 

「 ?? え ・・・ まさか   ジョー ・・・?

 わんこの声がするけど ・・・ ここ わんこがいるの ?? 」

 

窓辺に駆け寄って 開けようとした が。 

 

   にゃあ〜〜〜〜ん♪   

 

するりん。 足元にふさふさした・温かいほんわりした感触があった。

「 ?  わあ〜〜〜  ねこちゃん〜〜〜  可愛いわぁ〜〜

 ねえ どこからきたの?  」

フランソワーズは 屈んでそのマロン色の豪奢な毛皮を纏った猫を

抱き上げた。

「 ・・・ にゃあ? 」

「 うふふ 初めまして。  わたし フランソワーズっていうの。 

 もふもふ猫さん あなたは? 」

「 み? 」

「 ・・・ あ 首輪 してる・・・ ネージュ ( 雪 ) さん? 」

彼女は 首輪についている銀のプレートを読んだ。

「 み♪  にゃあ〜〜ん♪ 」

「 きゃあ あったか〜〜い♪  ねえ 教えて・・・ ここは どこ? 」

 

         にゃ。 にゃあ〜〜〜〜 ん

 

猫は水色の瞳で じ〜〜っと彼女を見つめている。

「 ここはあなたのお家なの?  すごいトコに住んでいるのねえ 

「 にゃあああ〜〜〜〜〜ん !! 」

腕の中の猫が ひときわ大きな声で鳴いた。

 

   わんわんわん〜〜〜〜〜  わん!

 

窓のすぐ下まで犬がやってきたらしい。

「 お〜い どうしたんだい?  そこは客用寝室だから騒いだらだめだよぉ

 お客さんを 起こしてしまうよ 」

 

      あ  ジョーの声だわ !!

 

  ガタン!  彼女はもう夢中で窓に駆け寄った。

 

そして片手で猫を抱き 片手で鎧戸を押し空け ― 身を乗り出した。

 

「 ジョー 〜〜〜〜〜〜!!!  わたし ここにいるわ! 」

 

「 へ??  あ ・・・ う わあ〜〜〜〜  あの その ・・・ 」

なにやら牧歌的な服装の茶髪ボーイは ひどく顔を赤らめ・・・

前髪で顔を隠してしまった。

「 ジョー  あのねえ 」

「 ・・・ あ  あのう お客様〜〜 わんこが騒いでごめんなさい。

 あの その 起こすつもり、なかったんですう 」

「 え?  ああ わんちゃんのせいではなくってよ?

 ねえ そこへ出ていっていい? わたし なんでここにいるのか・・・ 」

「 あ  あの  ・・・ お嬢さん ・・・

 あのう〜〜 外に出るなら ちゃんと ・・ そのう 服を着たほうが 」

彼は 俯いたきり全然こちらを見てくれないのだ。

ただ 彼の足元では茶色毛の犬が ( 首の周りだけ黒い変わった毛色だ )

こちらを見上げ、尻尾をぱたぱた振っている。

「 ??  ―  え  服 ・・・? 」

フランソワーズは 初めて猫を抱いている自分自身を 眺めた

 

     !   や  だ 〜〜〜〜〜〜 !

     下着だけ じゃない!!!

 

     ああ 猫ちゃん〜〜〜〜 

     アナタを抱っこしてて よかったわああ〜〜〜

     ・・・ なんとか胸元は 隠れてた わ 

     

「 し シツレイしました。  あの! すぐに行くから 〜〜

 ちゃんと服 着て。 だから そこで待ってて   ジョー ! 」

 

「 あ  あのう〜〜〜  聞いても いいですか 」

「 ?? なあに 」

「 お嬢さん ・・・ なんで ぼくの名前 知ってるのですか 」

 

          え ・・・?

 

なんの屈託もない、明るい茶色の瞳が やっとこちらを見上げてきた。

「 だ だって あの  あなた ― ジョー でしょう? 」

「 はい。 御客さま  ぼくの名前は 羊小屋のジョー ですが・・・」

「 え なあに?? ひつじ・・? 」

「 はい。 羊小屋のジョー です。 この、相棒のクビクロと一緒に

 羊小屋で暮らしてます。 あ 百匹くらいの羊も一緒です〜〜 」

「 そ そうなの  ≪ ジョー?  芝居 してるの? ≫ 」

窓辺に立ち ごく普通の表情で脳波通信を飛ばしてみたが ―  

返信は 無かった。

 

        ? どうしたの・・??

  

        受信済み も返ってこない・・・

        ! そもそも 通信を開いてない わ

 

「 − 今 そこにゆくから! 待ってて! 」

猫をそっと下に降ろし 振り向いた途端に ―

 

「 お 御客様〜〜 お嬢様〜〜〜 そ その恰好で・・・

 ああ ああ ネージュ様が隠してくださったのですね!

 ありがとうございます〜〜  さあ こちらへ 」

 

   ばさっ!  甲高い声とともにシルクの上掛けがアタマに飛んできた。

 

「 窓辺になど ・・・ お庭に居る人たちに見えてしまいます〜〜 

 どうぞ どうぞ こちらへ!! 」

「 え ・・・あ  あ〜〜〜 」

フランソワーズは 部屋の奥へ引き戻され ― 隣室に引っ張って

行かれた。

「 あ  あのう〜〜〜 」

「 どうぞ お召し替えを。 」

中年の婦人がアタマを下げている。

裾の長い服装で どうやら ・・・ この邸の使用人と思われる。

「 あの ・・・ わたし ・・・ 」

「 ええと ・・・ こちらのドレスを御召しくださいますか ? 」

 

    白とブルーを基調にしたベルベットのドレスが広げられている。

 

「 ・・・ え〜〜と  あのう  これは・・・ちょっと 」

「 申し訳ございません お気に召しませんか 」

「 いえいえいえ〜〜 とても素敵で豪華なドレスですよね 」

「 では どうぞ お召しくださいませ 」

「 − あのう わたしの服は ・・・? 」

「 あの赤いスキー服は ひどく濡れてしまいました。

 今  中庭で乾かさせております。 」

 

   にゃあ〜〜〜ん ・・・?

 

先ほどの猫が すりん〜〜と 彼女の足元に寄ってきた。

「 あら なあに  え〜と ・・・ ネージュさん? 」

「 ネージュ様も お召しください と仰っています。 」

「 ・・・ 下着ではいられないし ― 仕方ないわ ・・・

 わかりました。 着替えます。

 あの ・・・ この猫さんはアナタの猫さんですか? 

「 いいえ とんでもない〜〜〜

 ネージュ様は ご城主さまの猫さんです 」

「 ご城主さま?  ・・・ そうなんですか。

 ネージュさん 大変失礼いたしました。 」

フランソワーズは 足元の猫を抱き上げそのもふもふの毛皮を

ほんわり 頬を寄せた。

「 にゃあ〜〜ん  ごろごろごろ ・・・ 」

キャラメル色の猫は 盛大に咽喉を鳴らし始め 召使いとおぼしき婦人も

表情をやわらげている。

 

      ふうん ・・・ やっぱりあの城の中なのね?

 

      ってことは。 あの攻撃は功を奏したってこと。

      < 羊小屋のジョー > が この中にいるんだから

      アルベルトもどこかにいるわ。

 

      ジョー ・・・ 心配だけど ・・・

      とりあえずなんとか大丈夫なのね

 

      ―  いいわ。 しばらく様子を見ましょう

 

      お姫さまごっこ も悪くないかも

 

「 にゃ〜〜〜あ ? 」

「 ・・・ はい ネージュさま。 この素敵なドレスを拝借しますね 」

「 にゃん 」

「 どうぞ お嬢さま。 」

召使いさんは 甲斐甲斐しく着付けを手伝い始めた。

「 ありがとうございます 」

 

        え。  うっそ・・・ 

       これって パニエ?

 

       ひゃ〜〜〜 舞台衣装みたい〜〜

 

 

   チ 〜〜〜 チチチ ・・・ ちゅん ちゅん

 

猛吹雪の中をやってきたはずなのに 窓辺には柔らかい陽光が集まり

小鳥たちの囀りも 聞こえてくる。

ほんのりカーテンの隙間から入ってくる大気は 冷たくはない。

 

       ここ ・・・ 春 ・・?

       少なくとも 真冬ではないってことね

 

「 − はい、 これでよろしゅうございますわ。 」

「 ありがとう。 助かりました 」

ドレスを身に着けると なぜか自然に彼女の口調が変わった。

気品に満ちたその様子に 召使いの婦人はさ・・・っと腰を屈め

アタマを下げた。

「 い いえ ・・・ああ 素晴らしくお似合いに・・・ 

 あのう 大変失礼ですが・・・

 ― どちらの姫君でいらっしゃいますか・・? 」

「 森の ― 黒の森の側の別邸に雪遊びに来ていました。

 わたしのスキー服、 もう乾いたのではありませんか 」

「 あ  は はい!  ただいま取りに行かせますので

 少々お待ちくださいませ 」

婦人は 会釈をすると 慌ててドアから出ていった。

 

     にゃあ〜〜〜ん ??   

 

ソファの上で 猫さんが水色の瞳で フランソワーズを見ている。

「 あら ネージュさん?   ふふふ わたしのお姫さまぶり も

 なかなか でしょう?

 オーロラ姫 になったつもりで ― あなたと踊りましょうか 」

 

     にゃん♪  にゃ〜〜 ん

 

マロン色の猫は ぴん! と尻尾を立て 悠々と彼女に寄ってきた。

 

 

 

    

                    ***********

 

 

 

  ―   少し時間は遡る

 

 

  ヴュウ −−−−−−−−−  ゴゴゴゴ −−−−−−

 

収まった、と思っていた吹雪が 再び唸りを上げ始めた。

「 ―  ん ・・・ フランソワーズ  ジョ― いるか 」

先頭を滑っていたアルベルトは 進みを止めた。

 

「  ―  い いる わ・・・ すご・・・い 吹雪 ・・・ 」

「 俺の後ろに入れ。  ジョーは? 」

「 わたしの後ろ ・・・ にいたけど 」

「  ふん ・・・?  おい ジョー !!! いるか 」

「 いるよ〜〜〜〜〜  待ってくれ〜〜 」

 

雪のカーテンの向うから 案外元気な声が返ってきた。

「 おい 無事か 」

「 う うん  な なんとか ・・・ ふぇ〜〜〜〜 」

 

   ザ −−。  雪だるま寸前 みたにな姿でジョーが追いついてきた。

 

「 は あ・・・ 転げ落ち の連続だあ 

「 ふ ん  でもちゃんと付いてきたじゃないか 」

「 そりゃ ・・・ 必死だもん〜〜 」

「 少し避難しよう。  この吹雪は さすがの俺達でも 」

「 ヤベ〜〜 ってことか。  フラン? どした、震えてるね?

 寒いんなら ぼくのマフラー  巻いてろよ 」

「 ジョ―  へ 平気 ・・・ 寒いんじゃなくて なんか怖いの 」

「 こわい??? 」

「 ええ 怖いの。 なんでだか わからないんだけど ・・・

 背筋が すう〜〜〜っと ・・・ 」

「 寒いだけ、だろ? 」

「 ちがうわ。  ・・・ なにか よくないモノが いる・・?  」

「 え ・・・ 吹雪だけだよ?  あの音は呻り声じゃなくて

 ただの気象上の現象で 」

「 ― し っ !   静かにしろ。  なにか ・・・ いる 」

アルベルトが 二人を制した。

「 おい 003? 」

答えるより前に 彼女の強張った声が聞こえた。

 

「  あ   あれ。   あそこの あれ。   なに ・・・? 

 

        え?    なんだ ・・・?

 

 

吹雪の中に ずう〜〜〜ん ・・・と巨きな黒い影が立ちはだかっていた。

 

 

「 ― 城壁 ・・・?  城か? 」

「 う わ〜〜〜  デカイな  めっちゃデカイ 」

「 うそ ・・・ ねえ これって ―  あの 伝説のお城 ・・・? 」

自然に三人は しっかりと身を寄せ合いつつも 臨戦態勢を取っていた。

 

       ゴ ゴゴゴゴ  −−−−−  !!

 

彼らの眼の前に 堅牢かつ重厚な城壁が迫ってきた。

 

「 !  散れ。  009! 」

「 了解。 上に出る 」

009の姿が消えた。

「 003! 」

「 了解 ―  脳波通信、 受容量 最大にして。 」

 

  ≪ −−−−−−−−− ≫

 

凄まじい量のデータが 発信され始めた。

 

≪ 侵入経路はない ということか ≫

≪ 現状では ね。 ≫

≪ 最も弱い個所は?  そこ 破壊して ≫

≪ ・・・ それが ないのよ。 全部ががっちりコーテイング ≫

≪ 素材は ≫

≪ ・・・ それが ・・・ え  これは  こ 氷??? ≫

≪ そんな 馬鹿な ≫

≪ ふん。 そりゃ好都合だ ≫

≪ ?? どうして??  並の氷じゃないわ! ≫

≪ 分厚くとも巨大であっても 氷 なのだろう? 

≪ ―  く・・・ ううう ≫

≪ ジョー?? どうしたの?? ≫

≪ 〜〜って ・・・ ドアっぽいとこに 蹴りをいれた んだけど・・・

 ・・・ ううう  はねかえされちまった 〜〜 ≫

≪ だ 大丈夫??  ・・・ 硬度 すごいってこと? ≫

≪ 氷なんだろ? ≫

≪ ・・・ うん  めっちゃ固い 〜〜 ≫

≪ よし。  スーパーガンで集中して攻撃するぞ ≫

≪ あら だって。 この壁はレーザーを跳ね返すのよ?? ≫

≪ レーザーではなく。  ああ 大人がいればイチコロんだが ≫

≪ ・・?? 大人ですって?? ≫

≪  ・・・ あ〜〜 わかったよ  アルベルト!

 ― 熱線銃で 集中照射 だ! ≫

≪ ・・・ ふふん  正解。  一点に集中だ。

 俺と003が下辺、トップを009。 いいか ≫

≪ 了解 ! ≫

 

      ヴァ −−−−−−−   

 

三本の炎が一本になり 岩盤にもみえる個所に照射された。

 

    ・・・  ズ ・・・ ズズズ ・・・ ズア〜〜〜〜〜〜

 

ついに一角が溶け落ち始めた ― !

 

≪ いいぞ〜〜 もうちょっと〜〜 ≫

≪ 慎重に行け。 なにが出てくるかわからん ≫

≪ ・・・ ずっと 視て いるのだけど・・・ わからない ≫

≪ 003、索敵は中止、照射に集中だ。 ≫

≪ 了解。  さあ〜〜 負けないわよ〜〜  009 ズレてる! ≫

≪ ご ごめん ・・・ ≫

 

    ザザザザ −−−−−  ゴ 〜〜〜〜〜〜

 

ガンガチに固まっていた岩盤の一部が崩れ 城壁の一部が口を開けた。

 

≪ !  今だ! 003 真ん中に入れ。 009、 俺と

 両側について 突破だ ≫

≪ 了解〜〜 行くぞ! ≫

≪ ― 前方 空間あり! ≫

 

        タタタタ −−−− 

 

三人は塊となり城内に転げ込んだ。

 

≪ ・・・ やった! ≫

≪ 003 009。 無事か ≫

≪ 大丈夫!  003 きみは ≫

≪ わたしも ・・・ あ〜〜〜〜〜 !!!! 下 !! ≫

≪  え ? ≫

 

        ドゴ −−−− ン

 

003の悲鳴に近い通信に応える余裕もなく 三人の足元が崩れた。

いや まさにそのタイミングを狙い 床の一部がぽっかりと開いたのだ。

 

     う  わあああ〜〜〜〜〜〜〜〜

 

脳波通信を飛ばす余裕もなく 彼らは落下していった。

 

 ―  そして。

 

赤い特殊な服を着た三人は そのまま意識を失ってしまった。

サイボーグにあるまじき失態だが ― 抗う余裕はなかった ・・・らしい。

 

≪ く ???  加速装置が ・・・ き 利かない?? ≫

≪ 〜〜〜 くそ〜〜  マシンガン  機能し  ・・・ ない ≫

003は 遠退く意識の中で009と004の叫び を聞いていた。

 

    見えない 聞こえない !!  ここは 闇の底 ・・・ 

 

彼女もそんな叫びを最後に 首を垂れてしまった。

 

 

      ちら ちらちら ・・・・ ひら ひらひら ひら

 

赤い特殊な服が うち重なって倒れている上に  小雪が舞い落ちてきた。

 ― そして それは 次第に薄いピンクの花びらに変わっていった。

 

 

 

          ******************

 

 

  カチャン。   金髪の姫君はカップをソーサーに戻した。

 

 「  ・・・ そして 目が覚めたら ― あのすごいベッドの中 

 だったんだけど。  ・・・わたし いつ 防護服、脱いだの??

 服とブーツは戻ってきたけど スーパーガン は行方不明 」 

 

ぴんと糊の効いたテーブル・クロスの上には アフタヌーン・ティ が

用意されている。

タワーみたいな銀の籠?には スウィーツやらサンドイッチやらが

美々しくならんでいた。

 

「 どうぞ ・・・って言われたけど。 こんなに食べられないし。

 ううん のんびりお茶をしている場合じゃないわ!

 アルベルトを探しだして  羊小屋のジョー とハナシ、しないと 」

 

    ふう〜〜〜〜 ・・・  思わずため息が漏れた。

 

豪華なドレスは素晴らしいけれど きっちりパニエを付けているので 

あまり楽には動けない。

しかし のんびりしている訳にもゆかないのだ。

 

「 だいたいね  ここは本当にあの吹雪の中に聳えていた城なの??

 突然 時代が戻っているし 季節も ヘン。

 索敵したけど ― 本当に古風な城の中と昔風の生活の音が聞こえるだけ 

 なのよね ・・・ 」

 

コトン。 靴を脱いだ。 カカトの高い靴は日常でも苦手だ。

さりげなく置いてあったフェルトの室内履きに替えた。

 

「 あ〜〜 ・・・ 少し楽になったわ ・・・  あら? 」

 

    にいああ〜〜〜  ♪

 

あのマロン色の猫が するり、とドアから入ってきた。

「 ネージュさん? お茶 飲みますか  ああ ミルクがいいのね 」

ソーサーに ミルクを少し注ぎ 猫の前に置いた。

「 にゃあ(^^♪ 」

「 ・・・ 美味しい? よかった〜〜   ネージュさん

 お願いがあるの  」

「 にゃ? 」

水色の瞳が じっと見上げてくる。

「 あのね ― このお城の中を案内してくださるかしら。 」

「 にゃ! 」

差し出された白い手をぺろり、と舐めると 猫は機嫌のよい声を上げた。

「 まあ 嬉しいわ。  それじゃ ・・・

 ああ もう一杯ミルクをどうぞ? わたしもミルク・ティを

 頂くわ 」

「 ん にゃあ〜 」

猫は 大喜びでミルクを舐め フランソワーズも美味しくお茶を飲んだ。

  

  「 お散歩ですか?  どうぞ・・・・

    はい ご案内は ネージュ様にお任せくださいませ。 

    賢い猫様ですから 危険な場所には近寄りません 」

 

この部屋付きだ、という召使いは そんなコトを言っていた。

「 ― ということは。 ネージュさんといれば

 だ〜れもなにも言わないっていうことよね?

 散歩しているの って言えるわ。 

 索敵は003の専門 ― お仕事だもの。 

 ジョー ・・・ !  もう一度 会うわ。

 アルベルト。  きっと探し出すから 」

 

    にゃ?  足元で 猫が鳴く。

 

「 ああ はいはい。 では お散歩に出発しましょう。

 どうぞ よろしく、 ネージュさん 」

「 にゃあ〜〜〜ん♪ 」

マロン色の猫は シッポをぴん!と立てると得意気に

髭を振り振り 先導しはじめた。

「 お願いね。  あ そっちにゆくの?  はいはい ・・・ 」

猫と姫君は 広大なお城の中を歩いてゆく。

 

   ヒタ ヒタ ヒタ ・・・    室内履きなので足音はしない。

 

    ♪♪ 〜〜〜〜  ♪♪♪ 〜〜〜

 

どこからか風に乗って 音楽が流れてきた。

「 ・・・?  あら ・・・ このピアノ・・・ 

 アルベルトの音 ・・・じゃない? 」

「 にゃ? 」

「 ねえ ネージュさん。  この音はどこから来るの?

 このお城には音楽室があるのかしら 」

「 ・・・ にゃああ〜〜ん 」

マロン色の猫は す・・・っと ひとつ先の角を曲がった。

 

「 ・・・ にゃあ〜〜あ  」

「 え  ここ?  まあ ステキなお部屋ねえ 」

 

そこは 吹き抜けになっているロビーで グランド・ピアノが中央に据えてあり

壁に沿って 豪奢なソファが並んでいる。

そして ピアノの脇には ― 金髪のバイオリニストが妙なる音を奏でていた。

銀髪のピアニスト氏は 絶妙な伴奏を響かせる。

数人の観衆が 静かにその調べを楽しんでいた。

 

「 − アルベルト  ・・・ あ ・・? 」

一歩 踏み出そうとして フランソワーズの足は止まった。

彼と彼女の表情が よく見えたからだ。

 

        !  ああ  あの方  ・・・

        このヴァイオリニストさんは   あの方なのね。

 

        ええ きっとそうだわ。

        だって 彼 ・・・ 微笑んでいるもの

 

        ― どうぞ。

        幸せな時間を お邪魔しませんわ

 

 

「 にゃあん? 」

「 ネージュさん。  あのね あなたの飼い主様のところへ

 案内してくださいませんか 」

「 ・・・ にゃ。 」

猫は しばらく彼女を見つめていたが  す・・・っと歩き始めた。

 

      ヒタヒタヒタ ・・・    と と と ・・・

 

金髪娘と猫が歩いてゆく。 

「 どこまで行くの?  え ・・・ 地下室? 」

「 にゃあああ〜〜ん 」

「 え・・・ いいの??  待って 待って〜〜 」

猫はどんどん階段を降りてゆく。

やがて 大きな鋼鉄の扉の前にやってきた。

「 にゃあん 」

「 え ここにあなたの飼い主様がいるの??  ここは どこ? 」

 

      ゴォ −−−−−− ン  

 

低い低い音が 扉の向こうから響いてくる。

「 ・・・ !  なに・・? なにかの ― 機械音 ・・・?

 ここは どこなの 」

「 にゃあ  ・・・ にゃあああああ〜〜〜〜ん 

「 ネージュさん ?! 」

 

     カタン ― 

 

猫が大きな声で鳴くと 大扉の一部が内側から開いた。

 

「 ネージュかい?  お入り 」

 

部屋の奥から 低い声が聞こえた。

「 にゃ? 」

「 ・・・・・ 」

猫に導かれ フランソワーズはそう・・っと その中へ足を踏み入れた。

 

   ―  そこは  大きな扉の向うは   超現代的なラボ。

 

中央のソファにいた老婆が ゆっくりと振り向いた。

 

「 おや ネージュ。 御客をつれてきたのかい。 

 ああ ・・・ お前は あのサイボーグ達の 仲間だね? 」

 

Last updated : 09.20.2022.              back      /     index    /     next

 

************  途中ですが

原作 あのお話 の 後日談  かなあ ・・・

当サイトでは アルベルトはピアニストなのです☆