『 降る雪に ― (2) ― 』
ピチョン −− ・・・・
窓枠を伝わって そして 窓ガラスの上に水滴が落ちてきた。
鎧戸が半分開いているらしく 朝陽が絨毯の上に縞模様を描いている。
あ れ ・・・
ここ どこ。
わたしの部屋 じゃないわ ね ・・?
あのシマシマ ・・・ なんだろ
・・・ キレイねえ
フランソワーズは しばらくぼんやりと床の縞模様を見ていたが
かさり、と寝がえりを打った。
「 ・・・ う・・・ ん ・・・・? 」
するり ・・・ 光沢のあるシルクらしき上掛けがすべって半分落ちそうだ。
「 あ ・・・っと。 え ここわたしのベッド・・・
じゃないわ ね ・・? え? 」
伸ばした自分の腕が目に入れば やはりシルクの夜着が柔らかく揺れ、
頬に触れれば なんとも優しい感覚なのだ。
「 ・・・ きもちいい ・・・シルクって素敵よねえ
― え。 シルクの寝間着なんて 持ってないわよね?? 」
ガサ。 思わず起き上がり目を見張った。
「 〜〜〜〜〜〜 !! ここ どこ??? 」
起き上がったのは天蓋のついた大きな寝台。
シーツも上掛けも枕も すべて上等のシルクにレース付きだ。
枕とクッションは どれにも羽毛がふんだんに使われていて
ふんわり ・・・ 空気をはらんでいる。
うっそ ・・・・
お伽噺のお姫様のベッド〜〜??
「 ・・・だれも いない のかしら 」
とにかくこの大仰なベッドから出なければ、と姿勢を変えようとして
またまた 我が姿にびっくり。
たっぷりの袖と爪先も隠し引きずる裾の夜着は ドレープとレースだらけ。
「 !? うっそ〜〜〜 こんなの、着てる???
だって だって 着た覚え ないのよ? 」
とにかく 日常の自分 に戻らなければ と彼女はアタマを振った。
「 服 ・・・ わたしの服はどこ? 靴は? 」
えいっ! ばさ。 裾を持ち上げベッドから飛び降りた。
「 ― え〜〜〜 ここ どこ 」
シルクの夜着で 彼女は豪奢なそしてクラシカルな婦人用寝室に 居た。
天井は高く 壁は全体にオダリスク模様の布の壁紙がシックな雰囲気を
醸しだしている。
中央に大きなベッド、そして脇にはマホガニーのやはり大型の鏡台が
どっしりと据え付けられている。
大きな鏡はぴかぴかで部屋内を映し出し 凝った切子ガラスのランプが置いてある。
「 ひゃあ〜〜〜〜〜 本当にお姫様の部屋 だわ 」
鏡の前に立つと 丁寧にレヴェランスをしてみた。
レースだらけの夜着が 舞台のお衣装にも見えてなんだか不思議な気分になった。
「 ― 夢 みてるの? わたし ・・・
わたしは フランソワーズ ・・・ そして。 」
あ!!!! そうよっ!!!!
わたし スキーしてたのよ!! 吹雪の中で・・・
ジョーと アルベルトと!
バサ! 彼女は勢いよく立ち上がり、豪奢な夜着を脱ぎ捨てた。
「 ふ ん ・・・ 下着は いつもの、よね。
さあ〜〜 防護服はどこ?? わたしの新調したスキー・ウェアはどこ〜〜 」
カタン。 そうっとドアを開け 隣の部屋を伺った。
その時 ・・・
きったか〜〜〜ぜ こぞうの かんたろ〜〜〜〜〜〜♪
ワンワンワン〜〜〜〜 ♪
あはは あはは こっちおいで〜〜〜
重厚なカーテンの向う、窓の外から な〜んとも暢気でかつ陽気な歌声が
響いてきた。
「 ?? え ・・・ まさか ジョー ・・・?
わんこの声がするけど ・・・ ここ わんこがいるの ?? 」
窓辺に駆け寄って 開けようとした が。
にゃあ〜〜〜〜ん♪
するりん。 足元にふさふさした・温かいほんわりした感触があった。
「 ? わあ〜〜〜 ねこちゃん〜〜〜 可愛いわぁ〜〜
ねえ どこからきたの? 」
フランソワーズは 屈んでそのマロン色の豪奢な毛皮を纏った猫を
抱き上げた。
「 ・・・ にゃあ? 」
「 うふふ 初めまして。 わたし フランソワーズっていうの。
もふもふ猫さん あなたは? 」
「 み? 」
「 ・・・ あ 首輪 してる・・・ ネージュ ( 雪 ) さん? 」
彼女は 首輪についている銀のプレートを読んだ。
「 み♪ にゃあ〜〜ん♪ 」
「 きゃあ あったか〜〜い♪ ねえ 教えて・・・ ここは どこ? 」
にゃ。 にゃあ〜〜〜〜 ん
猫は水色の瞳で じ〜〜っと彼女を見つめている。
「 ここはあなたのお家なの? すごいトコに住んでいるのねえ 」
「 にゃあああ〜〜〜〜〜ん !! 」
腕の中の猫が ひときわ大きな声で鳴いた。
わんわんわん〜〜〜〜〜 わん!
窓のすぐ下まで犬がやってきたらしい。
「 お〜い どうしたんだい? そこは客用寝室だから騒いだらだめだよぉ
お客さんを 起こしてしまうよ 」
あ ジョーの声だわ !!
ガタン! 彼女はもう夢中で窓に駆け寄った。
そして片手で猫を抱き 片手で鎧戸を押し空け ― 身を乗り出した。
「 ジョー 〜〜〜〜〜〜!!! わたし ここにいるわ! 」
「 へ?? あ ・・・ う わあ〜〜〜〜 あの その ・・・ 」
なにやら牧歌的な服装の茶髪ボーイは ひどく顔を赤らめ・・・
前髪で顔を隠してしまった。
「 ジョー あのねえ 」
「 ・・・ あ あのう お客様〜〜 わんこが騒いでごめんなさい。
あの その 起こすつもり、なかったんですう 」
「 え? ああ わんちゃんのせいではなくってよ?
ねえ そこへ出ていっていい? わたし なんでここにいるのか・・・ 」
「 あ あの ・・・ お嬢さん ・・・
あのう〜〜 外に出るなら ちゃんと ・・ そのう 服を着たほうが 」
彼は 俯いたきり全然こちらを見てくれないのだ。
ただ 彼の足元では茶色毛の犬が ( 首の周りだけ黒い変わった毛色だ )
こちらを見上げ、尻尾をぱたぱた振っている。
「 ?? ― え 服 ・・・? 」
フランソワーズは 初めて猫を抱いている自分自身を 眺めた
! や だ 〜〜〜〜〜〜 !
下着だけ じゃない!!!
ああ 猫ちゃん〜〜〜〜
アナタを抱っこしてて よかったわああ〜〜〜
・・・ なんとか胸元は 隠れてた わ
「 し シツレイしました。 あの! すぐに行くから 〜〜
ちゃんと服 着て。 だから そこで待ってて ジョー ! 」
「 あ あのう〜〜〜 聞いても いいですか 」
「 ?? なあに 」
「 お嬢さん ・・・ なんで ぼくの名前 知ってるのですか 」
え ・・・?
なんの屈託もない、明るい茶色の瞳が やっとこちらを見上げてきた。
「 だ だって あの あなた ― ジョー でしょう? 」
「 はい。 御客さま ぼくの名前は 羊小屋のジョー ですが・・・」
「 え なあに?? ひつじ・・? 」
「 はい。 羊小屋のジョー です。 この、相棒のクビクロと一緒に
羊小屋で暮らしてます。 あ 百匹くらいの羊も一緒です〜〜 」
「 そ そうなの ≪ ジョー? 芝居 してるの? ≫ 」
窓辺に立ち ごく普通の表情で脳波通信を飛ばしてみたが ―
返信は 無かった。
? どうしたの・・??
受信済み も返ってこない・・・
! そもそも 通信を開いてない わ
「 − 今 そこにゆくから! 待ってて! 」
猫をそっと下に降ろし 振り向いた途端に ―
「 お 御客様〜〜 お嬢様〜〜〜 そ その恰好で・・・
ああ ああ ネージュ様が隠してくださったのですね!
ありがとうございます〜〜 さあ こちらへ 」
ばさっ! 甲高い声とともにシルクの上掛けがアタマに飛んできた。
「 窓辺になど ・・・ お庭に居る人たちに見えてしまいます〜〜
どうぞ どうぞ こちらへ!! 」
「 え ・・・あ あ〜〜〜 」
フランソワーズは 部屋の奥へ引き戻され ― 隣室に引っ張って
行かれた。
「 あ あのう〜〜〜 」
「 どうぞ お召し替えを。 」
中年の婦人がアタマを下げている。
裾の長い服装で どうやら ・・・ この邸の使用人と思われる。
「 あの ・・・ わたし ・・・ 」
「 ええと ・・・ こちらのドレスを御召しくださいますか ? 」
白とブルーを基調にしたベルベットのドレスが広げられている。
「 ・・・ え〜〜と あのう これは・・・ちょっと 」
「 申し訳ございません お気に召しませんか 」
「 いえいえいえ〜〜 とても素敵で豪華なドレスですよね 」
「 では どうぞ お召しくださいませ 」
「 − あのう わたしの服は ・・・? 」
「 あの赤いスキー服は ひどく濡れてしまいました。
今 中庭で乾かさせております。 」
にゃあ〜〜〜ん ・・・?
先ほどの猫が すりん〜〜と 彼女の足元に寄ってきた。
「 あら なあに え〜と ・・・ ネージュさん? 」
「 ネージュ様も お召しください と仰っています。 」
「 ・・・ 下着ではいられないし ― 仕方ないわ ・・・
わかりました。 着替えます。
あの ・・・ この猫さんはアナタの猫さんですか? 」
「 いいえ とんでもない〜〜〜
ネージュ様は ご城主さまの猫さんです 」
「 ご城主さま? ・・・ そうなんですか。
ネージュさん 大変失礼いたしました。 」
フランソワーズは 足元の猫を抱き上げそのもふもふの毛皮を
ほんわり 頬を寄せた。
「 にゃあ〜〜ん ごろごろごろ ・・・ 」
キャラメル色の猫は 盛大に咽喉を鳴らし始め 召使いとおぼしき婦人も
表情をやわらげている。
ふうん ・・・ やっぱりあの城の中なのね?
ってことは。 あの攻撃は功を奏したってこと。
< 羊小屋のジョー > が この中にいるんだから
アルベルトもどこかにいるわ。
ジョー ・・・ 心配だけど ・・・
とりあえずなんとか大丈夫なのね
― いいわ。 しばらく様子を見ましょう
お姫さまごっこ も悪くないかも
「 にゃ〜〜〜あ ? 」
「 ・・・ はい ネージュさま。 この素敵なドレスを拝借しますね 」
「 にゃん 」
「 どうぞ お嬢さま。 」
召使いさんは 甲斐甲斐しく着付けを手伝い始めた。
「 ありがとうございます 」
え。 うっそ・・・
これって パニエ?
ひゃ〜〜〜 舞台衣装みたい〜〜
チ 〜〜〜 チチチ ・・・ ちゅん ちゅん
猛吹雪の中をやってきたはずなのに 窓辺には柔らかい陽光が集まり
小鳥たちの囀りも 聞こえてくる。
ほんのりカーテンの隙間から入ってくる大気は 冷たくはない。
ここ ・・・ 春 ・・?
少なくとも 真冬ではないってことね
「 − はい、 これでよろしゅうございますわ。 」
「 ありがとう。 助かりました 」
ドレスを身に着けると なぜか自然に彼女の口調が変わった。
気品に満ちたその様子に 召使いの婦人はさ・・・っと腰を屈め
アタマを下げた。
「 い いえ ・・・ああ 素晴らしくお似合いに・・・
あのう 大変失礼ですが・・・
― どちらの姫君でいらっしゃいますか・・? 」
「 森の ― 黒の森の側の別邸に雪遊びに来ていました。
わたしのスキー服、 もう乾いたのではありませんか 」
「 あ は はい! ただいま取りに行かせますので
少々お待ちくださいませ 」
婦人は 会釈をすると 慌ててドアから出ていった。
にゃあ〜〜〜ん ??
ソファの上で 猫さんが水色の瞳で フランソワーズを見ている。
「 あら ネージュさん? ふふふ わたしのお姫さまぶり も
なかなか でしょう?
オーロラ姫 になったつもりで ― あなたと踊りましょうか 」
にゃん♪ にゃ〜〜 ん
マロン色の猫は ぴん! と尻尾を立て 悠々と彼女に寄ってきた。
***********
― 少し時間は遡る
ヴュウ −−−−−−−−− ゴゴゴゴ −−−−−−
収まった、と思っていた吹雪が 再び唸りを上げ始めた。
「 ― ん ・・・ フランソワーズ ジョ― いるか 」
先頭を滑っていたアルベルトは 進みを止めた。
「 ― い いる わ・・・ すご・・・い 吹雪 ・・・ 」
「 俺の後ろに入れ。 ジョーは? 」
「 わたしの後ろ ・・・ にいたけど 」
「 ふん ・・・? おい ジョー !!! いるか 」
「 いるよ〜〜〜〜〜 待ってくれ〜〜 」
雪のカーテンの向うから 案外元気な声が返ってきた。
「 おい 無事か 」
「 う うん な なんとか ・・・ ふぇ〜〜〜〜 」
ザ −−。 雪だるま寸前 みたにな姿でジョーが追いついてきた。
「 は あ・・・ 転げ落ち の連続だあ 」
「 ふ ん でもちゃんと付いてきたじゃないか 」
「 そりゃ ・・・ 必死だもん〜〜 」
「 少し避難しよう。 この吹雪は さすがの俺達でも 」
「 ヤベ〜〜 ってことか。 フラン? どした、震えてるね?
寒いんなら ぼくのマフラー 巻いてろよ 」
「 ジョ― へ 平気 ・・・ 寒いんじゃなくて なんか怖いの 」
「 こわい??? 」
「 ええ 怖いの。 なんでだか わからないんだけど ・・・
背筋が すう〜〜〜っと ・・・ 」
「 寒いだけ、だろ? 」
「 ちがうわ。 ・・・ なにか よくないモノが いる・・? 」
「 え ・・・ 吹雪だけだよ? あの音は呻り声じゃなくて
ただの気象上の現象で 」
「 ― し っ ! 静かにしろ。 なにか ・・・ いる 」
アルベルトが 二人を制した。
「 おい 003? 」
答えるより前に 彼女の強張った声が聞こえた。
「 あ あれ。 あそこの あれ。 なに ・・・? 」
え? なんだ ・・・?
吹雪の中に ずう〜〜〜ん ・・・と巨きな黒い影が立ちはだかっていた。
「 ― 城壁 ・・・? 城か? 」
「 う わ〜〜〜 デカイな めっちゃデカイ 」
「 うそ ・・・ ねえ これって ― あの 伝説のお城 ・・・? 」
自然に三人は しっかりと身を寄せ合いつつも 臨戦態勢を取っていた。
ゴ ゴゴゴゴ −−−−− !!
彼らの眼の前に 堅牢かつ重厚な城壁が迫ってきた。
「 ! 散れ。 009! 」
「 了解。 上に出る 」
009の姿が消えた。
「 003! 」
「 了解 ― 脳波通信、 受容量 最大にして。 」
≪ −−−−−−−−− ≫
凄まじい量のデータが 発信され始めた。
≪ 侵入経路はない ということか ≫
≪ 現状では ね。 ≫
≪ 最も弱い個所は? そこ 破壊して ≫
≪ ・・・ それが ないのよ。 全部ががっちりコーテイング ≫
≪ 素材は ≫
≪ ・・・ それが ・・・ え これは こ 氷??? ≫
≪ そんな 馬鹿な ≫
≪ ふん。 そりゃ好都合だ ≫
≪ ?? どうして?? 並の氷じゃないわ! ≫
≪ 分厚くとも巨大であっても 氷 なのだろう? ≫
≪ ― く・・・ ううう ≫
≪ ジョー?? どうしたの?? ≫
≪ 〜〜って ・・・ ドアっぽいとこに 蹴りをいれた んだけど・・・
・・・ ううう はねかえされちまった 〜〜 ≫
≪ だ 大丈夫?? ・・・ 硬度 すごいってこと? ≫
≪ 氷なんだろ? ≫
≪ ・・・ うん めっちゃ固い 〜〜 ≫
≪ よし。 スーパーガンで集中して攻撃するぞ ≫
≪ あら だって。 この壁はレーザーを跳ね返すのよ?? ≫
≪ レーザーではなく。 ああ 大人がいればイチコロんだが ≫
≪ ・・?? 大人ですって?? ≫
≪ ・・・ あ〜〜 わかったよ アルベルト!
― 熱線銃で 集中照射 だ! ≫
≪ ・・・ ふふん 正解。 一点に集中だ。
俺と003が下辺、トップを009。 いいか ≫
≪ 了解 ! ≫
ヴァ −−−−−−−
三本の炎が一本になり 岩盤にもみえる個所に照射された。
・・・ ズ ・・・ ズズズ ・・・ ズア〜〜〜〜〜〜
ついに一角が溶け落ち始めた ― !
≪ いいぞ〜〜 もうちょっと〜〜 ≫
≪ 慎重に行け。 なにが出てくるかわからん ≫
≪ ・・・ ずっと 視て いるのだけど・・・ わからない ≫
≪ 003、索敵は中止、照射に集中だ。 ≫
≪ 了解。 さあ〜〜 負けないわよ〜〜 009 ズレてる! ≫
≪ ご ごめん ・・・ ≫
ザザザザ −−−−− ゴ 〜〜〜〜〜〜
ガンガチに固まっていた岩盤の一部が崩れ 城壁の一部が口を開けた。
≪ ! 今だ! 003 真ん中に入れ。 009、 俺と
両側について 突破だ ≫
≪ 了解〜〜 行くぞ! ≫
≪ ― 前方 空間あり! ≫
タタタタ −−−−
三人は塊となり城内に転げ込んだ。
≪ ・・・ やった! ≫
≪ 003 009。 無事か ≫
≪ 大丈夫! 003 きみは ≫
≪ わたしも ・・・ あ〜〜〜〜〜 !!!! 下 !! ≫
≪ え ? ≫
ドゴ −−−− ン
003の悲鳴に近い通信に応える余裕もなく 三人の足元が崩れた。
いや まさにそのタイミングを狙い 床の一部がぽっかりと開いたのだ。
う わあああ〜〜〜〜〜〜〜〜
脳波通信を飛ばす余裕もなく 彼らは落下していった。
― そして。
赤い特殊な服を着た三人は そのまま意識を失ってしまった。
サイボーグにあるまじき失態だが ― 抗う余裕はなかった ・・・らしい。
≪ く ??? 加速装置が ・・・ き 利かない?? ≫
≪ 〜〜〜 くそ〜〜 マシンガン 機能し ・・・ ない ≫
003は 遠退く意識の中で009と004の叫び を聞いていた。
見えない 聞こえない !! ここは 闇の底 ・・・
彼女もそんな叫びを最後に 首を垂れてしまった。
ちら ちらちら ・・・・ ひら ひらひら ひら
赤い特殊な服が うち重なって倒れている上に 小雪が舞い落ちてきた。
― そして それは 次第に薄いピンクの花びらに変わっていった。
******************
カチャン。 金髪の姫君はカップをソーサーに戻した。
「 ・・・ そして 目が覚めたら ― あのすごいベッドの中
だったんだけど。 ・・・わたし いつ 防護服、脱いだの??
服とブーツは戻ってきたけど スーパーガン は行方不明 」
ぴんと糊の効いたテーブル・クロスの上には アフタヌーン・ティ が
用意されている。
タワーみたいな銀の籠?には スウィーツやらサンドイッチやらが
美々しくならんでいた。
「 どうぞ ・・・って言われたけど。 こんなに食べられないし。
ううん のんびりお茶をしている場合じゃないわ!
アルベルトを探しだして 羊小屋のジョー とハナシ、しないと 」
ふう〜〜〜〜 ・・・ 思わずため息が漏れた。
豪華なドレスは素晴らしいけれど きっちりパニエを付けているので
あまり楽には動けない。
しかし のんびりしている訳にもゆかないのだ。
「 だいたいね ここは本当にあの吹雪の中に聳えていた城なの??
突然 時代が戻っているし 季節も ヘン。
索敵したけど ― 本当に古風な城の中と昔風の生活の音が聞こえるだけ
なのよね ・・・ 」
コトン。 靴を脱いだ。 カカトの高い靴は日常でも苦手だ。
さりげなく置いてあったフェルトの室内履きに替えた。
「 あ〜〜 ・・・ 少し楽になったわ ・・・ あら? 」
にいああ〜〜〜 ♪
あのマロン色の猫が するり、とドアから入ってきた。
「 ネージュさん? お茶 飲みますか ああ ミルクがいいのね 」
ソーサーに ミルクを少し注ぎ 猫の前に置いた。
「 にゃあ(^^♪ 」
「 ・・・ 美味しい? よかった〜〜 ネージュさん
お願いがあるの 」
「 にゃ? 」
水色の瞳が じっと見上げてくる。
「 あのね ― このお城の中を案内してくださるかしら。 」
「 にゃ! 」
差し出された白い手をぺろり、と舐めると 猫は機嫌のよい声を上げた。
「 まあ 嬉しいわ。 それじゃ ・・・
ああ もう一杯ミルクをどうぞ? わたしもミルク・ティを
頂くわ 」
「 ん にゃあ〜 」
猫は 大喜びでミルクを舐め フランソワーズも美味しくお茶を飲んだ。
「 お散歩ですか? どうぞ・・・・
はい ご案内は ネージュ様にお任せくださいませ。
賢い猫様ですから 危険な場所には近寄りません 」
この部屋付きだ、という召使いは そんなコトを言っていた。
「 ― ということは。 ネージュさんといれば
だ〜れもなにも言わないっていうことよね?
散歩しているの って言えるわ。
索敵は003の専門 ― お仕事だもの。
ジョー ・・・ ! もう一度 会うわ。
アルベルト。 きっと探し出すから 」
にゃ? 足元で 猫が鳴く。
「 ああ はいはい。 では お散歩に出発しましょう。
どうぞ よろしく、 ネージュさん 」
「 にゃあ〜〜〜ん♪ 」
マロン色の猫は シッポをぴん!と立てると得意気に
髭を振り振り 先導しはじめた。
「 お願いね。 あ そっちにゆくの? はいはい ・・・ 」
猫と姫君は 広大なお城の中を歩いてゆく。
ヒタ ヒタ ヒタ ・・・ 室内履きなので足音はしない。
♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜
どこからか風に乗って 音楽が流れてきた。
「 ・・・? あら ・・・ このピアノ・・・
アルベルトの音 ・・・じゃない? 」
「 にゃ? 」
「 ねえ ネージュさん。 この音はどこから来るの?
このお城には音楽室があるのかしら 」
「 ・・・ にゃああ〜〜ん 」
マロン色の猫は す・・・っと ひとつ先の角を曲がった。
「 ・・・ にゃあ〜〜あ 」
「 え ここ? まあ ステキなお部屋ねえ 」
そこは 吹き抜けになっているロビーで グランド・ピアノが中央に据えてあり
壁に沿って 豪奢なソファが並んでいる。
そして ピアノの脇には ― 金髪のバイオリニストが妙なる音を奏でていた。
銀髪のピアニスト氏は 絶妙な伴奏を響かせる。
数人の観衆が 静かにその調べを楽しんでいた。
「 − アルベルト ・・・ あ ・・? 」
一歩 踏み出そうとして フランソワーズの足は止まった。
彼と彼女の表情が よく見えたからだ。
! ああ あの方 ・・・
このヴァイオリニストさんは あの方なのね。
ええ きっとそうだわ。
だって 彼 ・・・ 微笑んでいるもの
― どうぞ。
幸せな時間を お邪魔しませんわ
「 にゃあん? 」
「 ネージュさん。 あのね あなたの飼い主様のところへ
案内してくださいませんか 」
「 ・・・ にゃ。 」
猫は しばらく彼女を見つめていたが す・・・っと歩き始めた。
ヒタヒタヒタ ・・・ と と と ・・・
金髪娘と猫が歩いてゆく。
「 どこまで行くの? え ・・・ 地下室? 」
「 にゃあああ〜〜ん 」
「 え・・・ いいの?? 待って 待って〜〜 」
猫はどんどん階段を降りてゆく。
やがて 大きな鋼鉄の扉の前にやってきた。
「 にゃあん 」
「 え ここにあなたの飼い主様がいるの?? ここは どこ? 」
ゴォ −−−−−− ン
低い低い音が 扉の向こうから響いてくる。
「 ・・・ ! なに・・? なにかの ― 機械音 ・・・?
ここは どこなの 」
「 にゃあ ・・・ にゃあああああ〜〜〜〜ん 」
「 ネージュさん ?! 」
カタン ―
猫が大きな声で鳴くと 大扉の一部が内側から開いた。
「 ネージュかい? お入り 」
部屋の奥から 低い声が聞こえた。
「 にゃ? 」
「 ・・・・・ 」
猫に導かれ フランソワーズはそう・・っと その中へ足を踏み入れた。
― そこは 大きな扉の向うは 超現代的なラボ。
中央のソファにいた老婆が ゆっくりと振り向いた。
「 おや ネージュ。 御客をつれてきたのかい。
ああ ・・・ お前は あのサイボーグ達の 仲間だね? 」
Last updated : 09.20.2022.
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************ 途中ですが
原作 あのお話 の 後日談 かなあ ・・・
当サイトでは アルベルトはピアニストなのです☆